新型コロナウイルスで緊急事態宣言の今、サブスクビジネスを考えておくべき理由

コロナウイルス感染症の影響もあり、業績が悪化している企業も出てきている。いよいよ緊急事態宣言の発令などもあり、一層の自粛ムードが蔓延して、経営難となる企業も出始めている。一方で業績好調とまではいかないながらも、社会情勢が変化しても堅調な業績を維持する企業も存在している。今回は、サブスクリプションマガジン編集部がサブスクリプションの視点から、突発的な不況とサブスクリプションビジネスについて、一般社団法人日本サブスクリプションビジネス振興会理事長、テモナ株式会社代表取締役の佐川隼人氏にお話を伺った。

 

好景気のときにはどの企業も業績は良くなる、重要なのは景気縮小局面で生き残るビジネスをきちんと営んでいるかどうか

 

− コロナウイルスの影響もあって急激に業績を悪化させている企業もありますね。

はい、好景気のときにはどの企業も業績はよくなっていきます。売り切り型のフロービジネス、受託開発をしているIT企業なども、順調に受注を伸ばすことができます。しかし一方で社会情勢が急変して経済がストップしてしまうと、こうしたフロービジネスが真っ先に影響を受けて業績を悪化させてしまいます。

私が代表を務めているテモナ株式会社も、創業当初はシステムの受託開発で順調に業績を伸ばしていました。ところが、2008年のリーマンショックのときに急速な景気後退もあって、大口取引がなくなってしまうといった事態に遭遇しました。当然、売上は大きく落ち込みました。

売上が落ち込み、手探りで新たな収益事業を模索している中で出会ったのがD2Cのサブスクリプション型通販カートシステムでした。いわゆるリピート通販用のカートシステムです。自社の受託開発サービスを続けながら、約2年かけてカートシステムのサブスクリプション事業(SaaS事業)に事業の主軸を移行していきました。

インタビューに答える佐川隼人氏

インタビューに答える一般社団法人日本サブスクリプションビジネス振興会 代表理事 テモナ株式会社代表取締役社長 佐川隼人氏

 

その後、2011年に東日本大震災が起こったんですが、当時は既にサブスクリプションビジネスに事業がシフトしていましたので、売上には影響がほぼありませんでした。これはなぜかというと、サブスクリプションビジネスの場合、顧客の積み上げによって売上が拡大していくため、急激に景気が悪くなっても、急な売上減がないためです。もう一つは、先の売上が読めるので、そのための投資が行える。つまり、先手を打って対策をとることができるということなんです。

売り切りをはじめとしたフロービジネスは社会情勢などの外的要因の変化によって売上のバラつきが生じるが、ストックビジネスは外的要因に左右されずに事業の成長が見込める。

企業の本当の力というのは好景気ではなく不景気のときに見えてくると言えます。今回のコロナウィルスによる経済的な影響はこれからさらに大きくなってくると考えられます。もちろん今日明日にすぐサブスクリプションビジネスで業績をV字回復できるものではありませんが、今回の出来事を機会に、事業のあり方を早急に見直す機会にはなるのではないでしょうか。

 

−サブスクリプションビジネスが不景気や急激な社会情勢の変化に比較的強いというのはどういうことなのでしょうか。

先ほど少し述べましたが、まず一つはお客様との継続的なお付き合いが前提となっているビジネスモデルであるために、顧客の増加とともに売上が拡大する、なおかつ急激な環境変化があったとしても売上の減衰が緩やかで、対策を打つための時間的余裕が生まれるという強みがあります。

もう一つ、サブスクリプションビジネスの強みとしては、先の売上の見通しができるということです。これによって、計画的な投資が行えます。いざ、社会情勢が急変したとして、先程の時間的な余裕とともに速やかに対策をとって投資を行うことで、売上減少を避けられる可能性は高まります。

 

−サブスクリプションビジネスが今回のコロナウイルスなどの社会的要因に強い理由を端的に言うとどんな部分になるでしょうか。

サブスクリプションビジネスは安定した収益を得ることのできるビジネスではあります。一方で、売り切りなども含めてどのビジネスでも言えることなのですが、今回のコロナウイルスを発端にした不況のような状態のときには新規顧客が獲得できなくなるんですよ。新規がとれないというのはどういうことかというと、新たな収益源が得られなくなるということを意味しています。これがもし売り切り型のフロービジネスだったら、売上がゼロになることを意味しています。

コロナウィルスによる緊急事態宣言と企業の売上の関係

売り切り型ビジネスの場合、社会情勢の変化によって新規顧客が獲得できないと即売上はゼロになってしまうが、サブスクリプションビジネスの場合、新規顧客が獲得できなかったとしても、それまでストックしてきた売上は維持されることになる。

 

一方で、サブスクリプションビジネスであれば、今まで積み上げてきた売上がそのまま継続されますので、新規顧客が仮に獲得できなかったとしても、売上がゼロになるということはありません。今回のような世界的な社会情勢の変化の中でも影響を受けにくい、重大なダメージを受けにくい理由はここにあります。

以上が、不景気や急激な社会情勢の変化に対してサブスクリプションビジネスが強いと言われる理由になります。

 

逼迫した経営状況のいまだからこそサブスクリプションビジネスを仕込む時期

 

−将来の収益はもちろん重要なのですが、コロナウイルスによる経済悪化が叫ばれる昨今、どのような対策が打てるのでしょうか。

直近では経営状態の悪化に対応しなければならないので、新規事業どころではないのではないかと思います。コロナウイルスが一段落した頃に、今回の教訓を活かす形で中長期的にその次の事業を考えていかなければならないと思います。

サブスクリプションビジネスは一朝一夕では立ち上がらない事業です。まずは、あらためて自社のロイヤル顧客が誰なのか、この社会情勢でも引き続き契約を続けてくれた顧客などを再度細かく分析して、想定されるペルソナをいくつか洗い出しておく必要はあると考えています。

サブスクリプションビジネスを新規顧客獲得の手法として考える企業が多いのですが、そもそも毎月お金をお支払いいただく以上は、サブスクユーザーはすべてロイヤル顧客と考える必要があります。現在の自社のロイヤル顧客が誰なのか、その人達が持っている悩みや、なぜサービスを使い続けてくれているのか、といった事業の根本に関わる部分が曖昧だと、サブスクリプションビジネスを立ち上げたとしても失敗してしまうでしょう。

 

−今まさに苦しい会社だけでなく、すべての会社が社会情勢の変化に備えて次の事業を模索しなければならない時期なのでしょうか。

今のような調整局面というのは常に起こりうると想定して経営しなければいけないと考えています。ITバブル崩壊もそうですし、リーマンショック、東日本大震災や今回のコロナウイルスなど、変化を問われるタイミングというのは必ず訪れます。

売上の一部をストック化していくことは、安定した経営をしていく中で本質的に重要なことだと考えています。

 

今のECの盛況は一時的な巣ごもり需要 売上のある企業もいまのうちに次のビジネスへの準備を

 

−昨今の情勢で外出が抑制されている状態ですが、サブスクリプションサービスのユーザー側のメリットもあるのではないしょうか。

結局の所、それは一時的な巣ごもり需要だと思います。ECによる宅配もそうですし、SaaS系のサービスや映像系のサービスなども今は好調な企業が多いのではないでしょうか。直接的なコミュニケーションを必要としないビジネスは、今短期的に追い風になっているとは思います。

ただ、こういった需要は長期的に続かないので、サブスク企業は経営に余裕のある今のうちに次の安定した事業を創り出す必要はあると思います。好調な企業も、今は事業を進めながらもサブスクリプションビジネスのための戦略づくりなどの下準備をすることが有意義なのではないでしょうか。

 

サブスクリプションビジネスを始めるための4つのステップ

 

サブスク第一のステップ:ユーザーの定義とサブスクの設計

−戦略づくりというと具体的にはどういったことでしょうか

4つのステップがあると考えています。まず第一のステップとしてはサブスクの設計です。サブスクの設計で留意しないといけないのは、サービスにとってのペルソナです。つまり、お客様は誰かという話になります。先程も触れましたが、サブスクサービスを契約するユーザーというのは、最上位顧客になります。例えば、既存のサービスをサブスク化していくということであれば、既存のサービスの最上位顧客は誰なのかをきちんと定義することが重要です。ヘビーユーザーやロイヤルカスタマー、VIP顧客など、各社呼び方は様々あると思いますが、まず彼らがどういう属性なのか人物像、すなわちペルソナを作り上げる必要があります。新規の事業であれば、どういった顧客がヘビーユーザーになるかという定義をするところから始まります。

次に、ペルソナがどういう悩みを持っているのか、どういう部分に便利があるのかといった設計に入っていきます。ここは、以前サブスクリプションマガジンの記事としても扱った、ONB(お得・悩み解決・便利)に沿った設計になります。

参考:『サブスクリプションの成功の秘訣はオンブ!?失敗事例にも照らし合わせてみる
https://subscription-mag.com/knowledge/subscription-onb/

そのサービスを使うことでどういった利便性があるのかといった部分の設計ですね。

顧客のペルソナづくりとONBの設計を行うことで、ある程度サービスの形をつくることができると考えています。ここをしっかり作り上げるのが大切です。

 

サブスク第二のステップ:テストマーケティングと検証

第二ステップとしては、テストマーケティングです。第一ステップで作ったサービスを実際に試して検証する必要があります。ここで、システムを作ったり、インフラを整えたりと投資に走る方が非常に多いのですが、ここは最小限の投資や手作業などで行うことをおすすめしています。何故なら、企画したサブスクリプションビジネスがうまくいくかどうか、この時点ではまだわからないからです。スピード感も失われてしまいます。

営業資料や提案資料といったセールスのツールを作るのもこの段階です。作ったサービスの提案資料を使って、営業活動をおこなうことで、実際にニーズがあるのかどうか探るとともに、受けた発注からテストランを行う。実際にやってみて、今の戦略でいけるのかどうかを判断することができます。

 

サブスク第三のステップ:正式ローンチの準備のためのサービス作り込み

第三ステップでようやく、サブスクサービスの正式なローンチの準備に入っていきます。第二ステップでブラッシュアップしたサービスをもとに、システムの作り込みや、営業資料の作り込みを行います。ここでも大切なのは、最低限の作り込みに留めておくことです。このステップから初めて、プレスリリースなどを行っていきます。今は比較的サブスクリプションビジネスのプレスリリースに注目が集まりやすいので、早くプレスリリースを出したい気持ちはわかりますが、サービスが整っていない第二ステップの段階でだしてしまうと、うまくいくかどうかも分からない状態なので、あくまで第三ステップで本格運用が始まってから告知や営業活動をすることをおすすめしたいです。

 

−第二ステップでサービスをブラッシュアップして、第三ステップで告知や営業活動を本格化するということですね。

たとえばレストランなどを例として挙げるとすると、第一ステップと第二ステップまでは1店舗目です。そこでいろいろな検証をして、上手く行ったら第三ステップとして次の店舗を出していく。その後、店舗展開をしていくイメージです。小さくはじめて検証してからサービスをローンチしていくのが重要です。

 

サブスク第四のステップ:徹底的な顧客との対話と損益分岐突破

第三ステップで運用が開始されたところで、第四ステップに入ります。第四ステップは徹底的な顧客との対話です。サブスクリプションというのは、買ってもらったら終わりではなく、契約してからがスタートです。サブスクのポイントは、どれだけ満足して長く使っていただけるかです。実際にお客様に使っていただいて、どんな部分がよかったか、改善事項はないか、解約した場合にはどうして解約になってしまったかなどをコミュニケーションで理解していきます。

こうした対話はサービスが続く限りやり続けないといけないことです。第四ステップまできたら平均して何回くらい顧客が利用してくれているのかであったり、顧客獲得コストがいくらくらいかかっているのか、利益率がどの程度なのかといった情報も獲得できるようになってきます。こうした数字をもってサービスをブラッシュアップしていくのが第四ステップになります。

その後にはサブスクの一つのゴールである黒字化が待っています。サブスクというのは一度黒字化してしまえばその後続いて黒字化します。損益分岐を超えるというのは一つのサブスクのゴールと捉えることができますが、データがなければいつ損益分岐を超えるのかもわからないので、データから逆算して、サービスをブラッシュアップして新規顧客を獲得しつつ継続率を上げていく必要があります。

 

−こうしたステップをきちんと踏んで、損益分岐を迎えるということなのですね

はい、しかし多くのサブスクリプションビジネスは、いきなり第三ステップから始めていたりするんです。最初から本番サービスから初めて、大規模投資をしてしまう。しかも広くサービスを提供してしまっているので、ダメージも大きい。お客様に喜ばれないようであれば、いくら投資をしたとしても第一ステップからやり直す必要がある。

いま、いくつかのお客様の相談に乗っていますが、第三ステップに到達するまでには、三ヶ月から六ヶ月はかかります。きちんとしたサブスクサービスとして設計してローンチするためには半年近くは必要なので、今は目先のコロナによる不況で手一杯かもしれませんが、さらに先のコロナウイルスが落ち着いた時期を見越して、足元のビジネスを立て直しながら次の事業の柱を作り上げて行く必要があると考えます。

 

−今の状況だけにとらわれず、次の手を考えていく必要がありそうですね。

はい、そのとおりです。今の売り切り型ビジネスと並行して、サブスクリプションビジネスを設計していく必要があると考えています。こういった社会情勢の変化というのは常にあるものとして、想定しておく必要があります。今回の事態から学ぶチャンスであると考えています。

 

−最後に、このコロナウイルスに端を発した今回の社会情勢の中で伝えたいことはありますか。

これは私の過去の経験談になるのですが、かつてのリーマンショックの際に今回と同じように経営で地獄を見てきました。そんな中でサブスクリプションビジネスに転換して今東証一部に上場したという経緯があります。ピンチはチャンスではないのですが、今の時期だからこそ、半年後、一年後を見据えて地道に次の事業の設計を行うことで、「あのときやっておいてよかった」と思えるのだと思います。そういう意味で、今回の緊急事態宣言についても大きなきっかけにして欲しいと思います。

−ありがとうございました。

サブスクビジネスにはサブスクストア

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杉山拓也
大手SIerを経て、ベンチャー企業にて複数のB2Bメディアを立ち上げる。 その後アプリマーケティング会社を立ち上げ、500以上のアプリマーケティングを支援。サブスクリプション型のビジネスを通して継続的にユーザーとコミュニケーションする重要性を体感する。 サブスクリプションマガジン編集長。